- 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例における取得費加算額の計算上、「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」がいくらか争われた事案。
- 国税不服審判所は、貸家建付地としての価額に借地権割合を乗じた金額になると判断。原処分庁の更正処分等の一部を取り消した(令和元年7月5日)。
今回の事案は、請求人が、相続により取得した貸家建付地に借地権を設定した対価として受領した権利金が分離課税の長期譲渡所得に該当するとした上で、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例を適用して申告する際に、「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」は当該土地に係る相続税評価額の全額であるとして取得費の加算額を計算したところ、原処分庁が当該加算額は土地に設定された借地権の価額に対応する部分に限られるとして更正処分等を行ったことから、原処分の全部の取消しを求めたもの。
審判所は、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例は一定の要件に該当する場合に例外的な措置として相続税を取得費として加算することを認めるものであり、これは相続人が相続税の納税のため相続財産を処分しなければならない場合、処分をした者に対し、被相続人の所有期間に生じたキャピタルゲインを含めて所得税を課税することから、納税者の負担感が強くなるという問題に対処するため、政策的な見地から認めた趣旨であるとの見解を示した。また、相続税課税時には1つの資産として評価された土地について借地権が設定された場合、その取得費加算額は、譲渡所得課税の対象とされた借地権が相続財産の課税価格の計算の基礎に算入された当該土地のうちに占める割合を考慮して算定することが相当であるとした。その上で審判所は「譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」(措令25条の16)として各借地権が各土地のうちに占める価額は、各土地が相続税の課税価格の計算の基礎に算入された価額すなわち貸家建付地評価額に各借地権の占める割合を乗じた価額であるとして算定し、その結果、原処分庁の更正処分等を一部取り消した。
原処分庁は、各借地権設定契約により所得税法上譲渡したものとみなされる各借地権の価額は貸家建付地の評価額となると主張したが、審判所は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された評価額を前提とせず、別個独立に譲渡された資産の評価を行うことは法令の規定上適正ではないと指摘し、原処分庁の主張を斥けた。