• 東京地裁、シンガポール法人の残余財産の分配を受けた株主の住所は国内にあるとして納税者の請求を棄却(令和4年5月12日判決)。
 原告(個人)は、株式を保有するシンガポール法人(S社)の清算に係る残余財産の分配として、当該法人が他の法人P社(原告が株式の70%を保有)に対して有する債権を取得したが、その分配に係る所得を申告しなかったとして、処分行政庁から所得税等の決定処分等を受けた。これを不服とした原告は、原告の住所はシンガポールにあり所得税法上の居住者に該当しないなどとして、処分の一部の取消しを求めて訴訟を提起した。
 原告は平成27年当時、①シンガポールのPermanent Resident(シンガポールの永住資格を有する者)であり、シンガポールのアパートを賃借し、公共料金の支払もしていた、②シンガポール法人A社の代表者としての業務をシンガポールで行っており、S社及びP社のみから役員報酬を得ていた、③原告は日本でほとんど資産を有しない反面、シンガポールやアメリカに主な財産を有していたなどとして、原告の住所は日本ではなくシンガポールにあったと主張した。
 これに対し東京地裁は、①平成27年における原告の日本での滞在日数は271日(約74%)でありシンガポールでの滞在日数は少ない、②原告は、本件各シンガポール法人の業務に関しても、基本的には、国内にあるM社本店ないし滞在していた妻所有のマンションで報告を受け、指示を出していたものと認められる、③原告が国内にほとんど資産を有していないのは過去に滞納処分の執行を度々受けていたからであり、原告の生活の本拠が日本になかったことを必ずしも意味しないなどと指摘し、原告の生活の本拠たる住所は国内にあったと判断した。
 そのほか原告は、「本件清算決議に同意する旨の意思表示は錯誤によるため無効(本件清算決議は無効であり、本件配当所得はない)」「P社は原告に対する債務を有しており債務超過の状態であった」などと主張したが、これらの主張もすべて斥けられた。
 住所の内外判定については、「滞在日数、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等を総合的に考慮して」判断するとされているが(武富士事件)、本件及び令和3年11月25日東京地裁判決(本誌917号)のように、国外滞在日数が大幅に少ないケースでは、他の要素によって非居住者として認定されることは難しいと言えそうだ。