• 税抜経理方式を適用しているにもかかわらず、不動産貸付業の用に供していた建物の譲渡収入に係る消費税等相当額を必要経費に算入していたとして更正処分を受けた納税者が敗訴(東京地裁令和4年5月25日判決)。

不動産貸付業を営む個人事業者である原告は、税抜経理方式を適用して賃料収入等に係る消費税等相当額を仮受消費税等とし、管理費等の各種費用に係る消費税等相当額を仮払消費税等として計上していた。他方で、不動産貸付業の用に供していた建物の譲渡収入については、消費税等相当額を除いた金額を譲渡価額として計上していながら、消費税等相当額を仮受消費税等の額に加算しないまま、仮受消費税等から仮払消費税等を控除し、その差額を納付すべき消費税等の額から控除した残額を、不動産所得の計算上、必要経費に算入していた。その結果、譲渡代金に係る消費税等相当額が必要経費に算入されてしまっており、その計算に誤りがあるとして、処分行政庁から更正処分等を受けた。

東京地裁も、「税抜経理方式による場合、譲渡所得に係る納付すべき消費税等相当額は、損益に関係しない取引によるものであって必要経費に該当する余地がない」として、原告の計算方式は正当ではないとの判断を下した。

国は、「消費税等の施行に伴う所得税の取扱いについて」(本件通達)の2項において、個人事業者の税抜経理方式及び税込経理方式の混用禁止が定められており、同項の注書きの2では「譲渡所得の基因となる資産の譲渡で消費税が課されるものに係る経理処理については、当該資産をその用に供していた事業所得等を生ずべき業務と同一の方式によるものとする」(本件注書き)とされていることから、この通達の内容も根拠として、本件更正処分の適法性を主張した。

これに対し原告は、①不動産の賃貸と賃貸用建物の譲渡は、同一の事業の範囲に含まれないから本件注書きは適用されない、②消費税等の経理処理の方法によって課税所得の金額に差異が生じることとなるから、本件注書きは租税公平主義に反し違法などと主張したが、東京地裁は、仮に、原告主張に係る税抜経理方式と税込経理方式との間に不均衡にみえるような結果をもたらすことがあるとしても、法令上も実際にも、納税者が税込経理方式と税抜経理方式のいずれを採用するかを任意に選択できる制度となっていることなどを指摘、租税公平主義に反するとはいえないなどとして、原告の主張をすべて斥けた。