• 東京地裁、被相続人が会社に対して有する貸付金債権の評価が争われた事案で、回収不可能又は著しく困難とは認められないとして、額面価額で評価すべきと判断(令和6年3月26日判決)。

被相続人は、自らが代表取締役を務めていた同族会社(本件法人)に対して約5億円の貸付金債権等を有していた。相続人の一人である原告は、当該債権等の一部が回収不能であるとして、評価額を約2億6,000万円として相続税の申告を行ったが、処分行政庁は、額面どおり約5億円と評価すべきとして更正処分等を行った。

東京地裁はまず、貸付金の評価について定めた財産評価基本通達について、原則として額面評価とし(評価通達204)、例外として、債権金額の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときに限り、それらの金額を元本の価額に算入しない(評価通達205)とした各規定は合理的であるとした。

そして、「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは評価通達205(1)ないし(3)の事由と同程度に、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため、債権の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると確実に認められるときをいうものとの解釈を示した。

その上で、本件貸付金債権等については、評価通達205(1)ないし(3)に相当する事情は認められないとし、「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる」といえるかどうかを検討した。

東京地裁は、「本件相続開始日の時点において、本件法人は債務超過の状態にあり、売上高や経常利益も減少傾向にあって、その経営状況は緩やかに悪化しつつあったもの」としながらも、平成29年6月期においても本件法人の売上高はプラスであったことに加えて、①本件法人は、同族である役員に対して役員報酬を支払うことができていたこと、②本件貸付金債権等のうち約93.6%は、その債権者が被相続人又はその同族関係者が債権者となっている債権等であったから、直ちに返済を迫られるような状況にあったとはうかがわれないこと、③金融機関から新たな借入れをし、その債務を返済することができていたこと等を指摘。本件法人の経営状況が、本件相続開始日において破綻の危機に瀕していたものとはいえないとの判断を下した。

以上を踏まえ東京地裁は、本件貸付金債権等は、評価通達205の定めの適用はなく、評価通達204の定めにより元本価額である約5億円と評価すべきと結論づけた。