• 社会福祉法人(控訴人)が、障害者に支払った工賃が消費税法上の課税仕入れに係る支払対価に該当するかが争われた裁判(令和6年(行コ)69号)。
  • 名古屋高裁は、工賃は障害福祉サービスの一環であり、課税仕入れに係る支払対価に該当しないと判断し、社会福祉法人の控訴を棄却。

本件は、社会福祉法人(控訴人)が提供する障害福祉サービスの利用者に対して支払われた工賃が、消費税法上の支払対価(消法30条1項)に該当するかが争われたもの。社会福祉法人では、就労継続支援A型(障害の程度が軽度で、雇用契約に基づく就労が可能)と、就労継続支援B型(比較的重度の障害を持ち、雇用契約に基づく就労が困難)などの障害福祉サービスを提供している。今回争われているのは「B型」の利用者に対して支払われている工賃の取扱いで、利用者には、生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額が、工賃として支払われていた。

原審の名古屋地裁は、障害福祉サービスの一環として利用者に工賃支払を含む生産活動の機会を提供しているものであって、工賃の支払は利用者による役務の提供に対する反対給付であるとは認められないから、課税仕入れに係る支払対価に該当するとは認められないとして、社会福祉法人の請求を棄却していた。

社会福祉法人は、利用者は福祉サービスの一環として工賃を受領しているのではなく、利用者から社会福祉法人に対する役務の提供(消法2条1項12号)に対する反対給付であるから、課税仕入れに係る支払対価に該当すると主張。あわせて、消費税法における「課税仕入れ」の意義は、事業者からの譲渡であることを要求しておらず、消費税法上の役務の提供が具体的役務提供によって支払いが生じたという対応関係が認められるような役務の提供を意味するとはいえないなどと主張し、控訴した。

名古屋高裁(吉田彩裁判長)は令和7年1月30日、原審の名古屋地裁と同様に、工賃は課税仕入れに係る支払対価に該当するとは認められないとして、控訴人の請求を棄却した。高裁は原審の判断理由を引用した上で、課税仕入れ等の意義に対しては、課税仕入れの相手先を事業者に限定していないのは、課税仕入れに係る消費税額の把握を、仕入先の簿記上の記録によることとした結果、仕入先が課税事業者であるかどうかを具体的に確認した上、仕入税額控除を計算することとすると、実務上極めて煩雑になることを考慮したものと解されるとの見解を示した。