• 証券取引所に新規上場する前から引き続き保有する株式を上場に際して証券会社に預け入れる場合には選択する口座の種類に注意。
  • 上場株式の譲渡に際して「概算取得費」の適用を想定する場合には一般口座を選択する必要あり。特定口座内での譲渡について概算取得費の適用を否定した課税処分を国税不服審判所が認める。

非上場会社である発行会社が証券取引所に新規上場する場合には、引き続き保有しているその株式について口座通知取次請求などを済ませたうえで金融商品取引業者等(証券会社)に預け入れることになるが、この場合は預け入れる口座の種類に注意したい。選択した口座によってはその上場株式を譲渡した際に概算取得費を適用することができないからだ。

この概算取得費について国税庁の通達では、株式等を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、<略>当該株式等の譲渡による収入金額の100分の5に相当する金額(以下「概算取得費」という。)を譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費として計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする旨を定めている(措置法通達37の10・37の11共−13)。この概算取得費をめぐり、特定口座内で譲渡した上場株式に概算取得費を適用することができるか否かが問題となった裁決事例が、令和6年4月22日裁決である。この事案で国税不服審判所は、特定口座内で譲渡した上場株式等の取得費については、当該特定口座内における当該上場株式等の受入れに係る記録を基礎として金融商品取引業者等において当該上場株式に関する固有の計算方法により一元的に計算されることを予定しているのであって、納税者が申告するに当たり概算取得費とすることはできないという判断を示したうえで、概算取得費の適用を否定した税務署の所得税等更正処分等は適法であると結論付けている。

引き続き保有する非上場株式を新規上場後に譲渡すると相当多額の譲渡益が発生することが多い。一般口座であれば概算取得費を適用することができる一方で、令和6年4月22日裁決において特定口座における概算取得費の適用が否定されたことを踏まえれば、新規上場の際に預け入れる口座の種類の選択には慎重な検討が求められるといえそうだ。なお、仮に特定口座に預け入れた場合であっても、株式の保管を委託している金融商品取引業者等(証券会社)における所定の手続きにより、譲渡前に一般口座に振り替えることは可能である。