- 匿名組合契約に基づく金銭の支払いが「利益の分配」として源泉徴収の対象となるか否かが争われた税務訴訟で、納税者側が敗訴。
- 裁判所、「出資の払戻し」として取り扱う旨の清算処理等が行われたなどの事情がないため、本件支払いは「利益の分配」に該当。仮装経理で運用益は生じていないなどとした納税者側の主張を斥ける。
「匿名組合契約に基づく利益の分配」の支払者は、その支払いの際に所得税を源泉徴収しなければならない(所法210条等)。
本件で問題となったのは、匿名組合員から出資された金銭等を先物取引等により運用していた破産会社(匿名組合の営業者)が匿名組合員に支払った金銭が「利益の分配」に該当するか否かという点である。
納税者(破産会社の破産管財人)は、匿名組合に運用益が生じていたとして組合員に分配金を支払っていたものの、実際には利益が生じておらず、運用益が生じていたように仮装経理(粉飾決算)をしていたにすぎなかったと指摘。匿名組合員に対する支払いは出資の払戻しにすぎないから、「利益の分配」に該当するとして納税義務を負うことはないと主張した。
これに対し裁判所は、利益の分配としてされた支払行為が客観的評価においては営業者における損益計算等の誤りがあるため当事者間で成立した契約上の権利義務と一致しないものであったとしても、匿名組合員に出資の払戻しではなく利益の分配として金銭を交付し、匿名組合員も利益の分配としてその金銭を受領したものと取り扱われているのであれば、後に損益計算等の誤りの存在が確認され、匿名組合契約の当事者間において利益の分配ではなく出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質決定が改めて行われ、それに沿った清算処理等が行われるなどして課税要件事実の不充足が明らかになったなどの特段の事情がない限り、匿名組合契約に基づく利益の分配という課税要件事実の充足があったものとして課税することができるとした。
そして本件については、匿名組合員に対して出資の払戻しではなく利益の分配として金銭を交付し、匿名組合員も利益の分配として金銭を受領したものと取り扱われたことが明らかであると指摘。現時点に至るまで出資の払戻しとして取り扱うべきである旨の性質改定が行われそれに沿った清算処理等が行われたなどの事情は認められないため、本件支払いは「利益の分配」に該当すると判断。源泉税の納税告知処分を適法とした(東京地裁平成28年7月19日判決及び東京高裁平成29年1月19日判決)。