- 審判所、外貨建借入金の借換えに係る為替差損益の収入時期の判断基準を初めて示す(平成28年8月8日公表裁決・棄却)。
- 借換えの前後における外貨建借入金の内容の実質的な変化に着目し、実質的な変化がない場合には借換え時に収益を認識せず(完済時に為替差損益を認識)。
外貨建ての借入金を完済した場合、借入時よりも円高が進んでいれば借入時の円換算額と返済時の円換算額との差額が為替差益として課税の対象となる(円安が進んでいれば為替差損が発生)。本件で課税関係が問題となったのは、外貨建借入金を複数回借り換えた場合に為替差損益をどの時点で収益認識すべきであるかという点である。
納税者(個人)は、金融機関支店から平成21年10月に借り入れた外貨建借入金について複数回の借換え(すべて外貨建て)を行ったうえで平成23年7月に完済。また、同じ金融機関の別の支店から平成22年3月に借り入れた外貨建借入金についても複数回の借換え(すべて外貨建て)を行ったうえで平成23年10月に完済していた。
これに対し原処分庁は、当初の借入時の円換算額と最終的な返済時の円換算額との差額(為替差益)を雑所得と判断し、完済時である平成23年分の所得税について課税処分を行った。これを不服とした納税者は、最終的な完済時までの間に複数回行った借換え時にも為替差損益を認識すべきと主張し、完済時(平成23年分)の雑所得とした課税処分の取消しを求めた。
国税不服審判所はまず、外貨建借入金の借換えの際に計算される為替差損益については、一定の基本的な借入契約に定められた条件に基づき引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で借換えが行われた場合のように、借換えの前後における借入金の内容に実質的な変化がない場合には課税対象として認識しないとする一方で、借換えの前後における借入金の内容が実質的に異なる場合には課税対象として認識すべきという判断基準を示した。そして本件で既存の外貨建借入金元本の全額を借り換えた取引については、納税者が金融機関の各支店との間で締結した貸付与信枠に係るファシリティー(基本)契約による各条件(限度額・金利の計算方法・担保等)に基づき同一の支店から同一の通貨、同一の金額で行われており、借換えの前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたとは認められないことから、借換え時の為替差損益は課税の対象として認識しないと判断。外貨建借入金の完済時である平成23年分の雑所得とした課税処分を適法とした。