- 飲食店(ホステス業)に係る事業所得が営業許可等の名義人である請求人に帰属するか否かが争われた裁決で、審判所が原処分を全部取消し(平成28年11月15日裁決・広裁(所・諸)平28第6号)。
- 審判所、利益の管理処分状況や従業員の雇用及び労務管理などの諸事情を踏まえ、請求人は事業収益を享受していないと判断。
本件裁決で争点となったのは、本件店舗で経営されていたホステス業に係る事業所得が請求人(飲食店営業許可等の名義人)に帰属するか否かという点である。本件店舗には、「ママ」と呼ばれていたA、「チーフ」と呼ばれていた請求人及び経理担当事務を行うBのほか、数名のホステスが従事していた。請求人は、飲食店営業許可や本件店舗の建物賃貸借契約等の名義人であったほか、原処分庁に対して本件店舗でのホステス事業に係る開業届出書等を提出していた。一方で、「ママ」と呼ばれていたAは、請求人から売上金額を記載したメモ・売上伝票・領収書及び現金を受け取っていたほか、ホステスの採用や時間給の決定など労務管理に関する業務を行っていた。
原処分庁は、所得税及び消費税が無申告であった請求人に対する税務調査を実施。調査結果の説明を受けた請求人は期限後申告に応じた。その後請求人は、本件事業から生じた収益は請求人に帰属しないとして更正の請求を行ったものの、原処分庁は更正をすべき理由がない旨を通知。これを不服とした請求人は、審査請求により同通知処分の取消しを求めた。審判所はまず、事業を経営していると認められる者(事業主)が誰であるかという点は実質所得者課税の原則を踏まえ、事業許可等の名義のみならず、事業資産や事業資金の調達・管理、利益の管理・処分状況、従業員の雇用等事業の運営に関する諸事情を総合的に勘案して判定すべきであるとした。そして本件については、飲食店営業許可及び本件事業に係る各契約等の多くが請求人名義となっているのは「ママ」と呼ばれていたAの依頼に応じたものにすぎないと指摘。また、Aが本件店舗の事業に係る名義を請求人に変更後も本件事業の資金管理を行い、ホステス等従業員の雇用及び労務管理を含めた運営を行っている点を指摘。これらの点などを踏まえ審判所は、請求人とAとの間でAが従業員の立場でホステス等従業員の雇用及び労務管理を含めた本件事業の運営を行う旨の特段の合意があったとは認められないことからすると本件事業の事業主はAであったと認定したうえで、請求人に対する原処分の全部を取り消した。