• 業務中に労災事故に遭った納税者に対し勤務先が支給した給与名目の金員を課税所得と判断(東京地裁平成30年1月23日判決)。
  • 地裁、本件事実関係の下では支給された金員は賃金(労基法11)に当たることから非課税となる休業補償又は損害賠償金に該当せず。

本件は、労災事故に遭った納税者に対して勤務先が支給した給与名目の金員について、住民税が課税される賃金(給与)に該当するか否か(非課税所得となる休業補償又は損害賠償金に該当するか否か)が争われたものである。事実関係をみると、労災事故に遭った納税者は、入院・自宅療養の期間(約3か月間)に従前の給与と同水準の金員の支給を受けていた(なお勤務先と納税者との間で雇用契約書は取り交わされておらず、就業規則の定めもなかった)。納税者は自宅療養後、勤務先で約3か月間午前中のみ軽作業の勤務をしていた際にも従前の給与と同水準の金員の支給を受けていた(納税者はその後退職している)。

地方税当局は、本件金員が給与収入に含まれると判断し、納税者に住民税の納税通知書を送付した。これに対し納税者は、本件の金員は賃金(給与)の性質を有するものではなく非課税となる休業補償又は損害賠償金の性質を有すると主張して、住民税賦課決定の取り消しを求めて提訴した。

地裁はまず、実際に支払われた金員が「賃金」(労基法11)に当たるかどうかについて、使用者が労働者に対して明示又は黙示の合意により支払義務を負うとされるものかどうか、また、それが現実の労務提供の対価として又は労働関係上の地位に対して支払われるという性質を有するものかどうかという観点から総合的に判断することが相当であるとした。そして本件について地裁は、①勤務先は納税者に対して実際に勤務したかどうかを特に区別することなく給与名目で金員を支給していたこと、②勤務先は労災事故前と同水準の金員を支給していたこと、③勤務先は納税者が出勤しなくなった後もいずれ勤務に復帰する前提で金員を支給していたこと、④納税者は金員の支給を受けていた期間にそれを給与として受け取るものではない旨の留保を明示的に行っていたことはなかったことなどを認定。以上を踏まえ地裁は、本件の金員は勤務先と納税者との間の黙示の合意に基づき労災事故後における納税者の現実の労務提供の対価として又は労働関係上の地位に対して支払われるという性質を有するということができるから、「賃金」(労基法11)に当たると判断。非課税となる休業補償又は損害賠償金に該当しないと結論付けた。