- 過大役員退職給与を巡り、東京地裁が平均功績倍率の1.5倍を採用して課税処分の一部を取り消した注目事件の控訴審で納税者逆転敗訴(東京高裁平成30年4月25日判決)。
- 東京高裁、平均功績倍率法は同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、法令の趣旨に“最も”合致する合理的な方法と判断。国側による抽出基準の合理性を認める。
本件は、納税者が亡代表取締役に支給した役員退職給与のなかに損金不算入とされる不相当に高額な部分があるか否かが問題となった税務訴訟である。納税者は、功績倍率法(功績倍率6.5)に基づく役員退職給与を支給していた。これに対し税務署は、独自に抽出した同業類似法人5社の平均功績倍率が3.35であったことから、納税者が支給した役員退職給与には不相当に高額な部分があるとして損金算入を一部否認する課税処分を行った。これを不服とした納税者の訴えに対し東京地裁は、「特段の事情がない限り、平均功績倍率の1.5倍を用いて役員退職給与の適正額を算定すべき」という今までにない判断基準を示したうえで、訴訟のなかで国側が抽出した平均功績倍率3.26に1.5を乗じた4.89を採用。課税処分の一部を取り消していた(平成29年10月13日判決)。
判決を不服とした国側は、控訴理由書のなかで、1.5倍という数値は根拠のない数値と言わざるを得ないなどと主張し、国側敗訴部分の取り消しを求めた。東京地裁判決に対して東京高裁がどのような判断を下すのかに実務家の強い関心が寄せられていたなか、東京高裁は国側の控訴を全面的に認めたうえで、国側敗訴部分を取り消す判決を下した(納税者逆転敗訴)。
東京高裁は、原審である東京地裁判決を補正するなかで、「特段の事情がない限り、平均功績倍率の1.5倍を用いて役員退職給与の適正額を算定すべき」という判断内容を削除。高裁は、平均功績倍率法はその同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、本件において役員退職給与相当額を算定する方法として、法令の趣旨に“最も”合致する合理的な方法であるとしたうえで、国側が本件で採用した同業類似法人の抽出基準はいずれも合理的であると判断した。
そして高裁は、国側が抽出した同業類似法人の平均功績倍率3.26により算定した役員退職給与相当額を超える部分は不相当に高額な部分として損金に算入することができないと判断したうえで、税務署による課税処分は適法であると結論付けた。
なお、控訴審で全面敗訴した納税者は、上告及び上告受理申立てを提起している。