• 請求人(株主)が発行会社(非上場)に引き渡した株式の価額をめぐり、みなし時価譲渡課税を認める裁決(平成30年3月19日・札裁(所)平29第12号・第13号)。
  • 請求人は1株3,000円(額面の3倍)で発行会社へ譲渡も、審判所は評価通達により算定された価額の2分の1に満たないことから「著しく低額」と判断。

非上場会社の株主が複数いるような場合に、経営上の理由などから株主関係を整理するために非上場会社が自己株式の取得として発行株式を買い取るケースがある。この場合にしばしば問題となるのは、株主が発行会社に株式を引き渡す際の譲渡価額を幾らに設定すべきかという点である。

今回紹介する裁決事例で請求人は、非上場会社である発行会社に対して同社の株式を1株当たり3,000円(額面額の3倍)で引き渡したうえで、みなし配当のみを配当所得として申告していた。この申告に対し原処分庁は、請求人による株式の引き渡しは時価の2分の1に満たない「著しく低い価額」(所法59①二、所令169)による譲渡に当たり、配当所得に加えて時価による譲渡があったものとみなされることから譲渡所得も発生するとして、請求人に対し所得税更正処分等を行った。これを不服とした請求人は、直接審査請求により所得税更正処分等の取り消しを求めた。

国税不服審判所は、本件発行会社の株式の価額は「1株当たりの純資産額等を参酌して通常取引されると認められる金額」(所基通59-6)に一定の条件を付して評価通達が定める非上場株式の評価方法により算定することになるとした。次に審判所は、株式引渡時の請求人は発行会社の同族株主(評価通達188(1))に該当し、発行会社は中会社(同178)に該当するから、評価通達179(2)により「1株当たりの純資産価額(相続税評価額により計算した金額)」と「類似業種比準価額×0.75+1株当たりの純資産価額(相続税評価額により計算した金額)×0.25」とのいずれか低い価額をもって評価すべきと指摘。さらに所基通59-6(3)の定めにより、「1株当たりの純資産価額(相続税評価額により計算した金額)」の計算に当たり土地等及び上場有価証券は時価で評価する旨の修正を加えるべきと指摘した。そして本件について審判所は、請求人による株式引渡しの取引価額(1株当たり3,000円)は評価通達により算定された価額(株式引渡時の価額)の2分の1に満たないことから、「著しく低い価額」(所法59①二)に該当すると結論付けた。