• 東京地裁(民事51部)は令和3年4月27日、更正処分で否認された売上高を原資として支払われた報酬に係る源泉所得税の納付義務はないとして当該源泉税の還付を求めた納税者の請求を棄却。

本件で争点となったのは、建築関係の設計・施工等を行う合同会社A社(原告)が、後日否認された売上高を原資として代表社員X氏ら(本件各社員)に支払った報酬(本件各報酬)に係る源泉所得税等(本件金員)の納付義務の有無である。

X氏が代表取締役を務めるJ社は東京国税局査察部による税務調査で、原告A社及びS社に対する外注加工費の架空計上などにより法人税等を過少に申告していたとの指摘を受けた。J社は、J社の利益を原告A社及びS社に移転し、これらの会社から本件各社員が受ける報酬の金額を増やすことなどを画策。一方、原告A社及びS社は架空の外注加工費に係る請求書を作成し、取引事実のない売上高を計上していた。

本件調査の担当者は当初、S社及び原告A社の経費とされていた本件各社員に対する報酬合計1億2,770万円を否認し、これをJ社の経費とした上で損金不算入とする方針だったが、原告による申入れを受けて検討した結果、原告A社及びS社の法人格は否定できず、役員との間に委任ないし準委任の関係があるとして、上記1億2,770万円をJ社の経費としないこととした。

原告は、原告に本件金員を還付しなければ、J社に対する課税との二重課税に当たると主張したが、東京地裁は、J社に帰属するとして否認されたのは従業員H氏に対する給与のみであると指摘。J社が、本件各報酬を自らの経費としてこれに係る源泉所得税を納付した事実は認められず、原告の主張は採用できないとした。

また、原告は、売上高が否認された以上、本件各報酬も支払うことができなくなったとして、源泉所得税等の納付義務はないと主張した。しかし、東京地裁は、売上高の否認は、原告の法人税等の税額の計算上所得を減算したものに過ぎず、J社から原告に対して現に一定の金員が移動していることなども踏まえると、本件法人税更正処分は、原告が本件各報酬を支払った事実などを何ら否定するものではないとした。

さらに原告は、社員総会で本件各報酬の返納が可決されたことを根拠に、本件各報酬に係る源泉所得税等の納付義務の不存在(消滅)も主張したが、本件各報酬に係る債権確定時に源泉所得税等の納付義務は確定的に発生しており、自主返納の決議はこの納付義務に対して何ら影響を及ぼすものではないとしてこの主張も斥けられている。