• 東京地裁は令和4年2月14日、非上場株のみなし譲渡課税巡る裁判で納税者の請求を棄却。財産評価通達の譲渡所得課税への適用について、令和2年3月24日最高裁判決と同様の考え方を示した。
 個人株主から法人への非上場株式の譲渡がみなし譲渡(所得税法59条1項2号に規定する低額譲渡)に該当するか否か等が争われた事案で、東京地裁は令和4年2月14日、処分の取消しを求めた納税者の請求を棄却した。
 最近の非上場株式に係るみなし譲渡課税事案では、控訴審への差し戻しを言い渡した令和2年3月24日最高裁判決が注目を集めたが(なお、差し戻し審は令和3年5月20日に原処分を適法とした判決を言い渡した。)、本件においても、当該最高裁判決が判示した財産評価基本通達(以下、「評価通達」)の譲渡所得課税への適用の考え方を踏まえた判断が示された。
 非上場株式の時価、客観的交換価値については、必ずしも一義的に確定することができるものではない。そこで課税実務上、取引相場のない株式の価額については、所得税基本通達(以下「基本通達」)59−6の規定において統一的な取扱いが設けられており、原則として、基本通達59−6所定の一定の条件を付した上で、評価通達178から189−7までに定める例によって算定することとされている。
 所得税基本通達59−6(1)は、「財産評価基本通達188の(1)に定める『同族株主』に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること」と定めているものの、財産評価基本通達188の(2)、(3)及び(4)については特に言及しておらず、当該最高裁判決の事案では、配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等」(少数株主)に該当するかどうかの判定を、譲渡者の譲渡前の議決権割合に基づいて行うのか、それとも譲渡後の取得者の議決権割合に基づいて行うのかが問題となった。
 本件はその点が問題になった事案ではないが、評価された価額が適正な時価かどうかの判断において、以下のとおり、当該最高裁判決と同様の考え方が示されている。
 これに対し、本件で問題になる譲渡所得に対する課税は、(中略)所有者である譲渡人の下で生じている増加益に対して課税する趣旨のものであるから、その課税の場面においては、譲受人ではなく、当該譲渡人の評価会社への支配力に着目して評価すべきものと解される。そのため、その課税の場面においては、相続税等の課税の場面を前提とする評価通達の規定をそのまま用いることはできず、その差異等に応じた取扱いが必要になる。このような観点から、基本通達59−6は、取引相場のない株式の価額につき、基本通達59−6所定の一定の条件、すなわち、評価通達188の(1)所定の「同族株主」に該当するか否かは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定する旨などの条件を付した上で、評価通達178から189−7までに定める例によって算定する旨を規定したものと解されるし、その他の具体的な内容等をみても、一般的な合理性に欠けるところがあるとする事情は見当たらない。
 その上で東京地裁は、原告個人株主らは評価通達188の(1)の「同族株主」に該当するが、同188の(2)の「中心的な同族4株主」には該当しないから、基本通達59−6の(2)の規定が適用されることはなく、これにより評価通達178所定の「中会社」に該当することを前提として同178から189−7までに定める例によって譲渡の時における価額を算定すると、1株当たり1万6,567円になると認められ、1株当たり3,000円による本件譲渡は低額譲渡にあたると判断した。
 原告個人株主らは「原告会社が自己株式を取得したもので、いわゆる資本等取引として整理されるものであるから、対価の額の多寡にかかわらず、原告個人株主らと原告会社との間では、何らの利益も移転していないし、それをもって、原告個人株主らが原告会社に対して資産の譲渡をしたとは認められない」などと主張したが、東京地裁は「原告らの主張する資本等取引の概念は、法人税法上のものにとどまるし、ある発行会社が自己株式を取得した場合であっても、その相手方である個人からみれば、保有期間中の増加益を観念することができ、当該株式が自らの支配を離れて他に移転することにも変わりはないため、上記の趣旨が妥当するものと解される。その上、上記の趣旨からも明らかなように、譲渡所得に対する課税は、譲渡人と譲受人との間で移転した利益を捉えて課税する趣旨のものではないから、この点に関する原告らの主張は、その前提を欠くものといえる。」などとして、原告側の主張を斥けた。
 なお、本事案と同日に、もう一件同種事案の判決が言い渡されている。さらに、1月20日には、非上場株式の評価を巡る裁決で課税処分が取り消されており、非上場株式の評価を巡る争いが絶えない。
 周知のとおり、上記最高裁判決では、補足意見として「所得税法に基づく課税処分について、相続税法に関する通達の読替えを行うという方法がわかりにくい」などの指摘があり、この判決を受け、所得税基本通達59−6の明確化を図るための改正が令和3年8月に行われた。今後、納得感のある非上場株式の評価が望まれる。