• 相続税額は、相続税の総額に法定相続分を乗じて算出すべきか争われた裁決(東裁(諸)令3−56)。
  • 審判所、法定相続分の割合で遺産分割が成立したとしても、当該割合と相続税評価額により算定される課税価格を基礎とする割合が異なることは、不合理とはいえず。

本件は、請求人の母が、遺産の一部が未分割であるとして相続税の申告をした後、原処分庁が、母の死亡により納付義務を承継した請求人に対して増額の更正処分を行ったため、請求人が、相続税の総額に亡母の法定相続分の割合を乗じて算出した金額を超える部分は違法であるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

請求人は、各相続人が被相続人の資産及び負債を法定相続分どおり相続又は負担することとしたのであるから、相続人全員の合意内容に基づいて相続税の額を計算すべきであるなどと主張した。

審判所は、相続税法と遺産分割の制度とでは、対象となる財産の範囲、財産の評価時点及び評価方法等が相違するから、遺産分割が民法の規定する法定相続分に従ってなされたとしても、相続税法においては各相続人間の相続税額が法定相続分どおりになるとは限らないとの見解を示した。その上で審判所は、請求人が主張する相続人全員の合意内容とは、あくまでも各相続人が取得する財産の分割時の時価を基礎とするものであるから、分割時の時価に基づいて法定相続分の割合をもって遺産分割が成立したとしても、当該割合と相続税評価額により算定される課税価格を基礎とする相続税法17条(各相続人等の相続税額)に規定する割合が異なることは、相続税法と遺産分割の制度の違いから生じ得るものであり、かかる相違が生じても不合理とはいえないとし、請求人の主張を斥けた。

また、請求人は、調停条項により不動産等を取得したことで請求人にも代償金が発生しており、代償金の算定に当たって考慮すべきと主張したが、審判所は、代償分割は遺産の中の特定の財産について、現物分割の方法によることが困難である等の事情が存在する場合に、相続人の一人又は数人に具体的相続分を超えて当該財産を現物で取得させ、当該相続人に代償金を負担させる分割方法というべきものであるから、遺産分割審判(調停)において、通常、具体的相続分を超える現物の財産を取得した相続人以外の相続人について、その取得した財産が代償分割対象財産となることはあり得ないとした上で、調停が成立したことで請求人が取得した財産は、その具体的相続分を超えるものではないと指摘した。