•  国税庁、ストックオプションQ&Aを一部改訂。一定の要件を満たす付与前の信託型SOであれば、税制適格SOへの移行が可能。
  • 通達改正を踏まえ、税制適格SOであれば、権利行使価額を引き下げる契約変更をしても、税制適格SOとして容認。
  • 株券不発行でも税制適格SOの保管委託要件を満たす取扱いを示す。

国税庁は7月7日、「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)等を一部改正し、公表した。公開草案からの内容面での変更はない。改正通達では、税制適格ストックオプション(SO)を利用しやすいものとするよう、セーフハーバールールが導入されることになる。このセーフハーバールールとは、財産評価基本通達により取引相場のない株式により株価を算定している場合には、売買実例等により算定した価額の如何にかかわらず、これを認めるというものだ。

この改正通達を受け、改訂された「ストックオプションに対する課税(Q&A)」の大きなポイントの1つが税制適格SOの権利行使価額の契約変更を認めた点だ(問10参照)。税制適格SOについては、「新株予約権に係る契約により与えられた新株予約権を当該契約に従って行使する」ことが要件とされているため、当該契約で定めた事項を変更した場合には、税制適格SOには該当しなくなる。

しかし、今回の改正通達は、税制適格SOに係る権利行使価額が、税制適格を否認されないために高めに設定されていたという実務を踏まえたものであることに鑑み、通達改正後に権利行使価額を引き下げる契約変更を行った場合で、かつ契約変更後の権利行使価額が通達に定めた権利行使価額に関する要件を満たしているときは、税制適格SOとして認めるとの取扱いを示している。国税庁によれば、一旦は厳しい税制適格の要件をクリアしたものであることを踏まえた要件緩和であるとしている。

なお、税制適格SOについては、会社法238条1項に定める事項に反しないで行われることが要件とされている(措法29条の2①五)。したがって、仮に契約変更後の権利行使価額が、付与決議で定めた権利行使価額に反することとなる場合には、権利行使価額を変更する株主総会決議が必要になる。大幅に権利行使価額が引下げられるようなケースなどの場合には留意しておきたい点だ。

また、株券不発行のスタートアップ企業等に配慮した要件緩和を認めた点も注目される(問11参照)。現行、税制適格SOについては、取得した株式について、証券会社等に保管の委託等がされることが要件(保管委託要件)の1つとなっている。このため、株券不発行会社の場合は、税制適格要件をクリアするために、無理やり株券発行会社に変更し、新たに株券を発行するといった実務が行われているようだ。

このような実情に配慮し、国税庁は、今回のQ&Aにおいて、発行会社が未上場かつ株券不発行会社である場合には、契約等に基づき、発行会社から金融商品取引業者等に対して株式の異動情報が提供され、かつ、発行会社においてその株式の移動を確実に把握できる措置が講じられている場合には、株券の発行及び株券の金融商品取引業者等への引き渡しをしなくても、保管委託要件を満たすとの取扱いを容認することとしている。こちらも大きなポイントといえよう。

そのほか、すでに国税庁が明言していたとおり、信託が新株予約権を保有し、役職員に新株予約権が付与されていない段階においては、税制適格SOの要件を満たすのであれば、税制適格SOへの移行も可能であるとの見解を明らかにしている(問12参照)。国税庁は、信託型SOだからといって税制適格であることを否定しているわけではないとしている。

なお、具体的な要件としては、以下の通りとなっている。

信託型SOにおける税制適格要件
① 信託型ストックオプションに係る信託契約において、原則として、信託の受託者が自身の判断で、そのストックオプションの行使又は第三者への譲渡をすることができないとされていること。
② 信託型ストックオプションは、発行会社の取締役等に無償で付与されること。
③ 信託型ストックオプションの行使は、信託型ストックオプションに係る受益者を指定する日(受益者指定日)の日後2年を経過した日から受益者指定日後10年(発行会社が設立の日以後の期間が5年未満の株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社であることその他の要件を満たす会社である場合には15年)を経過する日までの間に行わなければならないこと。
④ 信託型ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が1,200万円を超えないこと。
⑤ 信託型ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、信託受益権の付与に係る契約の締結時における1株当たりの価額相当額以上であること。
(注)「信託受益権の付与に係る契約の締結時」については、信託受益権の付与に係る契約の締結の日が、受益者指定日から6月を経過していない場合には、受益者指定日として差し支えありません。
⑥ 取締役等において、信託型ストックオプション及びその信託受益権の譲渡が禁止されていること。
⑦ 信託型ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法第238条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること。
⑧ 発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において、信託型ストックオプションの行使により取得した株式の保管の委託がされること。