- 亡元代表者の会社に対する貸付金の相続税評価額が争われた事案で、東京地裁は、確実に債権の回収見込みがないとはいえず元本価額で評価すべきと判断(東京地裁令和5年8月31日判決)。
中小企業の代表者が会社に貸付けをしたまま亡くなった場合、その貸付金は相続財産に含まれる。このような場合、会社の業績が悪く返済される可能性が低いにもかかわらず相続税が課されることを不服とし、相続人がその評価額を巡って裁判などで争うケースが多い。
原告が亡兄(被相続人)から相続した相続財産の中には、被相続人らが全株式を保有する同族会社Y社に対する貸付債権が含まれていた。原告は、本件債権の評価額を、相続後に実際に返済を受けた約1,400万円として相続税の申告をしたが、処分行政庁は、元本価額である約6,000万円とすべきとして更正処分等を行った。
東京地裁は、貸付金の価額を元本の金額と既経過利息との合計額で評価すると定めた評価通達204の例外として定められた評価通達205について、「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、評価通達205(1)ないし(3)の事由と同程度に、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため、債権の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると確実に認められるときをいうとの解釈を示した。
その上で東京地裁は、①Y社は、ほぼ債務超過の状況にあったが、相続開始日時点の借入金の債権者は全て原告であったから、直ちに返済を要するものではないことは明らか、②Y社の損益状況は、減価償却費を除けば黒字であり、修繕費を30万円以上計上していた期を除けば黒字であった、③Y社が専ら営んでいた不動産賃貸業は、被相続人の死亡によって事業の継続が困難になったとはいえず、将来にわたっての本件債権の返済は可能であったなどと指摘。以上のことから、Y社が、経済的に破綻していることが客観的に明白で、本件債権の回収の見込みがない又は著しく困難であると確実に認められるものであったとはいえないとして、本件債権は、評価通達204により、相続開始日における元本価額約6,000万円と評価すべきと結論づけた。
裁判所の判断を踏まえると、法的整理などがなく、赤字や債務超過の状態というだけでは債権の回収見込みが全くないと判断されることは難しそうだ。なお、本件では、相続開始後にY社の解散及び清算が行われているが、相続税対策を行うなら、相続開始前に行われる必要があったともいえる。