- 物理的損害以外の損害に雑損控除が適用できるかが争われた事案で納税者敗訴(東京地裁令和6年1月23日判決)。
原告が一室を所有するマンションは、令和元年の台風19号により、共用部分の一部である電気、通信及び給排水等設備等が被害を受け、修繕等を要する状態になったが、住戸部分である原告専有部分については物理的な被害はなかった。
東京地裁は、雑損控除(所法72①)の制度趣旨を「災害により損失を被った場合には、その原状回復のために相当の出費を要することに伴い、多分に担税力が減殺されることに着目して設けられた制度」とした上で、所得税法72条1項にいう「損失」とは、通常、再取得又は修繕等を行うことにより原状回復が可能である物理的損害をいい、物理的な被害から直接生じたものではない損害は「損失」に当たらないとの解釈を示した。
原告は、①所得税法施行令206条1項1号及び2号が、災害関連支出の前提として「価値が減少したこと(場合)」と規定していること、②所得税法51条1項が、資産に生じた損失の金額には「価値の減少」によるものが含まれることを明記していることなどを根拠として、所得税法72条1項の「損失」には物理的損害以外の損害が含まれると主張していた。
これに対し東京地裁は、所得税法施行令206条1項1号及び2項の文言は「~の支出」となっており、何らかの支出がされることを前提としていると指摘。これらの規定は、物理的な損害から直接生じたものではない損害が「損失」に含まれることの根拠とはならないとした。
また、所得税法51条1項についても、「損壊による価値の減少」という文言からは、物理的な被害である「損壊」によって直接生じたものであることが必要であると解するのが相当とし、原告の主張を斥けた。
原告は、雑損控除対象損失金額の算定についても、資産を災害前の状態に戻すために必要な支出をもとに算定することを不当であると主張したが、東京地裁は当該算定方法は直ちに違法とはいえず、当該方法により算定すると、保険金等補填金額が、「資産について受けた損失の金額」と「災害関連支出」の合計額を上回るため、雑損控除対象損失金額はないとした。
雑損控除については、能登半島地震による被害について前倒しでの適用が認められる見通しだが、物理的損害に限られるという本判決を踏まえ、損害の内容には注意が必要だろう。