- 相続税の課税価格に算入すべき代償金の価額がいくらかで争われた裁決。審判所は、遺言の解釈は文言を形式的だけではなく、遺言書作成当時の事情などを考慮して遺言者の真意を探求して確定すべきと判断。相続発生時に死亡していた長男に対する遺言は効力が生じないとする請求人の請求を棄却(東裁(諸)令4−127)。
本件は、請求人が相続財産である土地の評価額が過大であるなどとして、相続税の更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、請求人が取得した代償金の価額に誤りがあるなどとして、更正の請求の一部のみを認容する更正処分をしたことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
請求人(長女)は、被相続人の遺言に係る遺言書には「長男ら3名は、遺言により財産を取得する代償として各人から金1,000万円(合計金3,000万円)を請求人に支払う。」旨定められているところ、長男が相続発生時にすでに死亡しているため、遺言のうち長男に対する部分は効力が生じないから、請求人の相続税の課税価格に算入すべき代償金の価額は2,000万円であると主張した。
審判所は、遺言の解釈に当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するに当たっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解される(最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決)との見解を示した。
その上で審判所は、遺言書の代償金に係る条項の文言、遺言書の全記載との関連、遺言書の作成当時の事情及び被相続人の置かれていた状況等からすると、被相続人の意思は、請求人の生活状況及び資力等を考慮して、請求人に請求人自宅を取得させるとともに、請求人に取得させるべき代償金の総額を定めたと解するのが合理的な意思解釈というべきであるとし、長男ら3名の各人が個別に負担する代償金の金額のみを定めたと解すべき事情も見当たらないとした。したがって、推定相続人のうちのいずれかの者が相続開始までに死亡していたか否かにかかわらず、請求人の相続税の課税価格に算入すべき代償金の価額は遺言証書に記載された「合計金3,000万円」であるとして請求人の請求を棄却した。