• 株式の無償譲渡の時点で発行会社に借入金が存在したか争われた事案(名裁(諸)令5第6号)。
  • 審判所、会社が債務超過となった原因は代表取締役であった義父であることを踏まえると、請求人は株式譲渡前に借入金の債務免除を義父母に求めたとみるのが合理的と判断。株式譲渡時に借入金は存在せず、請求人の主張を斥ける。

本件は、取引相場のない株式の無償譲渡を受けた請求人が、当該株式を発行する会社に借入金があることを前提に、株式の価額は零円であるとして贈与税の申告をしなかったところ、原処分庁が、譲渡の時点で会社の借入金の一部は消滅しており、借入金の一部を負債として計上せず株式の価額を算定すると、零円ではなく、請求人は譲渡により対価を支払わないで利益を受けたとして、相続税法9条に基づき贈与税の決定処分等を行ったことから、請求人は原処分の全部の取消しを求めたものである。

請求人は、発行会社の代表取締役であった義父及び義母が株式を譲渡したのは、会社が債務超過で株式の1株当たりの評価額が零円であること、すなわち各借入金が存在することを認識していたためであるなどと主張した。なお、請求人は、義父母から株式を譲り受けた上で、会社の代表取締役に就任している。

審判所は、請求人は株式の譲渡より前に、会社の債務への対応及び会社が所有する建物の多額の修繕工事費用等の工面について検討した上で、取引金融機関からの借入金を代位弁済し、工事費用等として会社に多額の資金を貸し付けることとしたものと認められ、さらに、会社には借入金があり、請求人は借入金への対応についても検討したものと推認されるところ、会社は多額の債務超過の状態であり、その原因が主に代表取締役であった義父によるこれまでの事業運営にあることも踏まえると、請求人が取引金融機関からの借入金の返済や建物の工事等のために高額の資金を支出するのに加え、会社が借入金の返済まで行うことを前提に、請求人が株式を譲り受けて会社の代表取締役となることを決意したとみるのは合理的ではないと指摘。請求人は株式の譲渡前に借入金の債務免除を義父母に求めたとみるのが合理的であるとした。

したがって、審判所は、義父母もこの請求人の求めに応じたとみるのが自然であり、義父母が会社に対して借入金につき債務を免除する旨意思表示したことが合理的に推認できることから、借入金は、譲渡の時点において存在しなかったと認めるのが相当であるとして、請求人の主張を斥けた。