• 東京地裁、法人が代表取締役に対する貸付金免除の事実を仮装したとして、債務免除益に対する源泉所得税の納税告知処分を適法と判断(令和6年10月29日判決)。
ODAに関する機材調達等を行うF社(原告)は、代表取締役S氏に対する貸付金について、返済を受けたものとして経理処理を行った。これに対し処分行政庁は、当該経理処理は、実際には返済がされていないにもかかわらず返済されたように装ってした虚偽のものであると指摘。その上で、F社がS氏に対して貸付金返還債務を免除し、経済的利益を供与したものといえるから、当該利益はS氏の給与所得に該当するとして課税処分を行った。
F社はカンボジアに100%子会社を有していた。F社はカンボジア子会社名義の口座に送金を行い、本件各送金の日から遅くとも4日後までに、カンボジア子会社からF社名義の口座に、本件各送金の金額とほぼ同額又はこれを下回る金額の入金が行われていた。そして、本件各入金の日又はその翌日付けで、本件各入金がされたことを理由として、S氏に対する「短期貸付金」勘定を減額する経理処理が行われた。
東京地裁は、これらの事実から、本件各入金の原資は、本件各送金により送金された金銭であると認定。また、本件各送金は、前払金名目等でされたものであるものの、前提となる契約はインボイスも契約書も存在せず、F社が商品を取得することも予定されていなかったのであるから、実体を伴わないものであったと指摘した。
その上で、①F社、S氏及びカンボジア子会社の三者間には密接な関係があること、②S氏は、金融機関の心証を良くするために、F社の決算書においてS氏に対する短期貸付金をゼロにしたいと考えていたこと、③カンボジア子会社のS氏に対する融資契約の内容は、経済的合理性のある取引とはいえないことなどから、カンボジア子会社からF社への各入金の原資は、F社に帰属するものというべきであり、F社は、自らの資金をもってカンボジア子会社に本件各入金を行わせ、これをS氏に対する貸付金の弁済があったものとして本件各減額処理をしたことになるから、実質的にはS氏の債務を免除したものと評価するのが相当であるとした。そして、S氏が本件各減額処理により得た利益は給与所得に該当するとして、処分行政庁による源泉所得税等の納税告知処分は適法とした。
なお、東京地裁は、F社は債務免除の事実を仮装隠蔽したとして、重加算税の賦課決定処分も適法としている。