- 請求人が配偶者に支払った退職金が必要経費に算入できるか争われた裁決(関裁(所)令5第36号)。
- 審判所、請求人と配偶者は別居も、請求人は配偶者に生活費として月平均で11万円以上送金していることから、配偶者は請求人と「生計を一にする親族」であったと判断。
本件は、不動産あっせん業を営む請求人が、平成29年分の所得税等について、請求人の配偶者に対して退職金を支払ったとして、必要経費に計上し申告したところ、原処分庁は、配偶者は生計を一にする親族であると認められ、退職金は必要経費に算入することができないとして更正処分等を行ったことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。請求人は、配偶者は長年事業に従事しつつも、請求人と配偶者の住所地は別々であり、生計を一にしていないことから、退職金は平成29年分の事業所得の計算上、必要経費に算入することができるなどと主張した。
審判所は、納税義務者と生計を一にする親族が納税義務者の営む事業に従事したことなどにより対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額を納税義務者の事業所得などの金額の計算上必要経費に算入しないこととしており(所法56条)、ここにいう生計を一にするとは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の糧を共通にしていることと解され、当該規定は、同居の有無自体ではなく、生計を一にするか否かによりその適用の有無が区別されるものと解されるとした。
その上で本件では、請求人と配偶者は別居していたとは認められるが、配偶者の平成24年分から平成29年分までの収入は公的年金のみで、配偶者は生活のための十分な資金を自ら稼得していたとはいえないと指摘。このような状況において、請求人は、配偶者に対し生活費として月額15万円程度の送金をすることを目標としつつ、平成25年から平成29年にかけて、配偶者に対し、月平均11万円から約26万8千円の送金をしていたことからすると、配偶者は請求人からの送金によって生活を維持していたというべきであるとし、配偶者は請求人と生計を一にする親族であったとの判断を示した。
なお、請求人は、子どもが入院を繰り返したため、平穏な生活を送ることができず、納税申告をする余裕はなかったなどと主張したが、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情であるとは認められないとし、「正当な理由があると認められる場合」(通則法66条1項ただし書)に該当しないとされている。