- 国税局の指摘に対し異議を述べずに源泉税を納付した支払法人に対して、給与課税を受けた納税者が損害賠償を請求していた事件で、支払法人が勝訴する判決(東京高裁平成27年10月15日)。
- 高裁は、支払法人が修正申告を行う前に納税者と話し合いの機会を持つべき信義則上の義務を負っていたとは認められないと判断。
納税者が法人から支払いを受ける業務委託手数料が給与所得と事業所得のいずれに該当するかが問題となるケースは多い。
今回の裁判事案は、支払法人(被告・被控訴人)が納税者(原告・控訴人)に支払った業務委託手数料の実態は納税者に対する給与であるという国税局からの指摘に対し、支払法人が異議を述べずに源泉所得税等を納付したことなどを問題視した納税者が支払法人に対し損害賠償を請求していた事件だ。事実関係をみると、業務委託手数料を給与認定した国税当局の判断に対し、支払法人は異議申立てを見送る一方で、給与認定を不服とする納税者が行った審査請求により納税者に対する給与課税はその全部が取り消された。この裁決結果を踏まえ、納税者は、支払法人は源泉税の納付に関し異議を述べ、その結果を是正するべき信義則上の義務を負っていたと主張し、納税者が審査請求を行うなかで支出した弁護士費用などの損害賠償を支払法人に対し請求した。これに対し東京地裁は、国税局からの指摘内容には相応の合理性があったと指摘し、支払法人が源泉税の納付に応じる判断をしたことは納税者に対する不法行為にはならないと判断。東京地裁は、源泉税の納付に関し支払法人が異議を述べその結果を是正するべき信義則上の義務が発生する余地はないと判断し、納税者の請求を斥けていた。
この東京地裁判決を不服とする納税者は控訴を提起。この控訴に対し高裁は、国税局から給与に該当する旨の指摘を受けた支払法人が修正申告を行う前に納税者と話し合いの機会をもつ信義則上の義務があったか否かに関する判断を新たに示した。
高裁は、国税局の指摘を受けたことにより修正申告を行うか否かはあくまでも支払法人自身の問題であって、一般的にその判断前に納税者との話し合いの機会を持つ義務は認められないと判断。また、高裁は、納税者に対する給与課税については納税者独自の判断で争うことができるため、支払法人が修正申告を行う際に納税者と話し合いの機会を持つべき信義則上の義務を負っていたとまでいうことはできないと判断したうえで、納税者の控訴を棄却した。