• 相続させる旨の遺言により特例対象宅地等を取得した場合であっても、未分割財産である特例対象宅地等に係る共同相続人全員の選択同意書がなければ小規模宅地特例の適用不可(東京高裁平成29年1月26日判決・確定)。
  • 特例対象宅地が複数ある場合は、特例適用に関し全相続人の同意が得られる遺言を残すことが重要に。

本件の争点は、被相続人の長男(納税者)が相続させる旨の遺言により取得したA区土地(特例対象宅地等)について小規模宅地特例を適用する場合に、未分割財産であるB市土地(特例対象宅地等)の共同相続人(長女ら)の選択同意書を申告書に添付する必要があるか否かという点である。

措置法令40条の2第5項三号では、小規模宅地特例の適用を受けるためには、特例対象宅地等の全てを取得した個人が1人である場合を除き、特例対象宅地等を取得した全ての相続人の選択同意書を相続税の申告書に添付しなければならない旨が規定されている。この点、特例対象宅地等が未分割財産である場合には、措置法69条の4第4項ただし書きの規定により、未分割の上申書を提出したうえで「被相続人の遺産についての協議が整った段階」(申告期限後3年以内)で選択同意書を取得すれば特例の適用を受けることができる。もっとも、このただし書きの規定は特例対象宅地等が未分割財産であることが前提となる。したがって、本件のように「相続させる旨の遺言」により納税者が取得した分割財産であるA区土地にはただし書きの規定を適用することができない。この点を問題視した納税者は、遺言の有効性に争いがある場合には他の相続人の選択同意書を取得することが困難であるから、申告時点で選択同意書の添付を要件とすると相続させる旨の遺言の対象である遺産については小規模宅地特例の適用が実質的に排除されてしまうと指摘。措置法令40条の2第3項三号(現行の40条の2⑤三)は遺言対象となった特例対象宅地に対して適用される限りにおいて租税法律主義(憲法84条)に違反した違憲無効な規定になると主張した。

これに対し東京高裁は、共同相続人間で特例対象宅地等の選択に関する同意がまとまらないという事態は様々な理由により一般的に生じ得るものであることからすれば、本件のような場合に選択同意書の取得を要求することで特例の適用が妨げられる可能性があるからといって選択同意書の提出を要求する措置法令40条の2第3項三号が租税法律主義に反するとはいえないと指摘。納税者の主張を斥ける判決を下した。