• 取引先から請求人の元代表者に支払われた金員が請求人に帰属するか否かが問題となった裁決で、審判所が課税処分の一部を取消す(平成29年3月10日・公表裁決)。
  • 審判所、金員支払に係る事実関係を総合すれば元代表者個人に支払われたと認めるのが相当。請求人に帰属する収益とは認められず。

ある収益が法人と個人のいずれに帰属するのかという点が問題となるケースは少なくない。今回紹介する裁決事例は、取引先から請求人(法人)の元代表者に支払われた本件金員が請求人に帰属する収益と認められるか否かが争われたものである。

事実関係をみると、請求人の元代表者は、全額を出資して土木建築工事業等を営む請求人(同族会社)を設立する一方で、その設立以前から個人で土木建築工事業等を営んでいた。なお、元代表者は平成8年に代表取締役を退任し、その後再び取締役に就任したものの平成21年に辞任している(請求人の株式保有はゼロである)。

請求人は平成23年10月、工場の解体撤去工事の解体現場で発生する金属スクラップ等の有価物を買い受ける旨の継続的売買契約をL社との間で締結したほか、請求人がL社から買い受けた金属スクラップ等をM社に売り渡す旨の継続的売買契約をM社との間で締結した。その後M社における請求人の担当者であったNは、請求人の元代表者から金属スクラップ等の中に希少金属が含まれていることを理由に相応の金額の支払を求められたことから、Nが経営するP社を振込名義人として元代表者名義の口座に振込送金により代金(本件金員)を支払った。この取引に対して原処分庁は、請求人が金属スクラップ等の売買取引により得た収入を故意に計上しなかったとして法人税及び重加算税の課税処分を行った。これを不服とした請求人は、その取引に基づく収益は請求人に帰属するものではないと主張して課税処分の取消しを求めた。

審判所は、①元代表者は当時、請求人の役員や従業員、株主ではなく請求人とは別個独立の個人事業を営んでいたこと、②元代表者は請求人が受注した工事に飽くまで仲介人として関与したにとどまること、③本件金員はN個人が出損し請求人を経ずに元代表者に直接支払われたもので元代表者の個人的な使途に充てられたことなどを認定。これらの事実関係を踏まえ審判所は、元代表者の行為を請求人の行為と同視することはできないなどとしたうえで、本件金員は元代表者に支払われたものと認めるのが相当である(請求人に帰属する収益とは認めることができない)と判断した。