- 相続土地の譲渡に係る取得費をめぐり、概算取得費を用いた原処分庁による所得税更正処分の一部を審判所が取り消す(平成29年12月13日・東裁(所)平29第64号)。
- 審判所、売主である宅建業者が保存していた約50年前の土地台帳の信頼性を認めた上で、同台帳記載の売買代金により取得費を算定。
相続により取得した土地を売却する際にしばしば問題となるのが、その土地の取得費は幾らかという点だ。この点に関し措置法及び通達では、収入金額の5%を概算取得費とすることができる旨が規定されている(措法31の4、措通31の4-1)。
相続により取得した土地に係る売買契約書等が残っていないことなどにより、実際の取得費を把握できないことから概算取得費を選択するケースが多く見受けられるなか、実際の取得費が概算取得費を上回るのであれば実際の取得費を用いた方が納税者にとって有利である(もっとも、概算取得費>実際の取得費であれば概算取得費を選択した方が有利となる)。
今回の裁決事例では、請求人が相続により取得した本件土地(請求人の父が宅建業者から取得したもの)の取得費は幾らかという点が争点となったものである。
この点に関し原処分庁は、本件土地の取得に要した実額が不明であることから、その取得費は概算取得費とすべきであると主張した。これに対し請求人は、請求人の父が取得した時点における本件土地周辺の地価公示価格から推計した取得費を採用すべきであると反論した。
国税不服審判所はまず、審判所の調査によると宅地建物取引業法による帳簿の備付け義務がある宅建業者(本件土地を請求人の父に売却した者)が通常の業務の過程で作成した「土地台帳」と題する書面(以下「土地台帳」)の存在が認められるとしたうえで、土地台帳の記載内容の信用性が極めて高いことから、その記載通りの事実を認めるのが相当であるとした。
そして審判所は、土地台帳に記載された本件土地に係る売買代金が概算取得費(収入金額の5%)を超えることから、概算取得費を本件土地の取得費と認めることは納税者の利益に反することとなり相当ではないと判断したうえで、概算取得費を採用した所得税更正処分の一部を取り消した。
本件は、宅建業者が約50年前の書面を保存していたことが更正処分の一部取消しにつながったとみることができるとともに、相続土地の取得費を宅建業者(売主)が保存する書面により把握するという手段があることを示したものといえそうだ。