- 相続開始前に亡母(被相続人)名義の預金口座から現金を引き出した納税者に対する重加算税を含む課税処分を適法と判断(東京地裁平成30年1月19日判決・納税者は控訴を提起)。
- 地裁、亡母名義の預金口座から納税者が引き出した現金等は亡母に帰属。納税者名義口座への入金など一連の行為は隠ぺいに該当。
本件の発端は、平成24年に死亡した亡母(被相続人)の唯一の相続人である納税者(原告)が相続開始前に亡母名義の預貯金等から現金5,180万円を引き出したことにある。納税者は、相続開始前に出金した現金5,180万円のうち、300万円を亡母の医療費、ショートステイの費用などとして費消する一方で、現金のうち1,070万円を納税者名義の預貯口座に入金していた。また、納税者は、相続開始時点で費消及び入金していなかった3,810万円の現金を自宅の金庫内で保管していた。
納税者は、亡母に係る相続税の申告の際に、納税者名義の預金口座に入金した1,070万円及び自宅の金庫に保管した現金3,810万円の合計4,880万円を相続財産として申告していなかった。これに対し課税当局は、納税者名義の預金口座に入金した金員相当額の亡母の納税者に対する不当利得等に基づく返還請求権及び自宅の金庫に保管された現金は亡母の相続財産であるとして、重加算税を含む課税処分を行った。
これを不服とした納税者は、専業主婦であった亡母名義の預貯金等は給与所得を得ていた亡父(亡母の夫であり平成19年に死亡)の未分割の相続財産(又は納税者に帰属する財産)であることから、重加算税を含む課税処分は違法であるとして、その取り消しを求める税務訴訟を提起した。
東京地裁はまず、①預貯金等は亡母名義であること、②亡母の固有の財産である年金等が入金されていること、③亡母名義の国債の償還、利息が入金されていること、④亡母は自ら預貯金等の口座の通帳及びキャッシュカードを管理していたことなどの事実を総合すれば、預貯金等は亡母に帰属すると認められるとした。そして地裁は、納税者が預貯金等を亡母の相続財産として申告する必要があることを認識しながら、相続開始前に亡母の医療費等の支払に要する額を大幅に上回る現金を引き出したうえで、1,070万円を納税者名義の預貯口座に入金し、3,810万円の現金を自宅の金庫内で保管した一連の行為は故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺいする行為であると認定。重加算税を含む課税処分を適法と判断した。